In memory of : 〜を記念して、〜のために;〜を追悼(追憶)して

2

地面に黒い水玉模様が広がり始めた。
「やばっ!」
エドワードは走り出した。
先ほどから用心して本をコートで包んで抱えてはいるものの、
やはり心配だ。
住宅街を抜けて市街に出ては来たものの、飛び込めるコーヒーショップも見当たらない。
雨脚は次第に強くなり、本降りの様相を呈し始めている。
とりあえず、その場しのぎでも!と一軒の小さな店先の軒下に
身を寄せた。
それが合図だったかのように、また雨脚が強くなる。
「ひゃー、まいったな」
肩先の雫をはらいながら恨めしげに本降りの雨を見やった。
店のドアがベルの音と共に開く。
「降ってきちゃったわね、大丈夫?」
店の店員らしい女性が顔をのぞかせた。
「あ、すいません、雨宿りさせてもらってます」
「いいけど、そこじゃあ外とあまり変わらないでしょ。
中へお入りなさいよ」
「いえ、大丈夫です。ご迷惑ですし」
「そこに立っていられたら、店を開けてても誰も入って来られないから同じことよ」
確かに。店の入り口をふさぐような格好になってしまっている。
「私もこれから休憩を取ろうと思っていたところだし。
どのみちこの雨じゃ、お客なんかきやしないわ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて…」
何の店だろ、と思いつつ、中へ入れてもらう。
落ち着いた色調の什器と控えめのライティング。骨董屋だ。
小さなウィンドウに「休憩中」の札を出して中から施錠する。
「こんな店でしょ、いちいち鍵をかけないと危ないのよ」
ケースの中には年代物の宝飾品が綺麗に並べられている。
他に時計やオペラグラス、小さなグラスにいたるまで。
よく見ると什器もアンティークだ。
「あ、あなたが危ないかも、ということは忘れていたわ。
カミーユ爺さんに知れたら、無用心だって叱られちゃうわね」
苦笑しながら女性は奥のドアを開ける。
「私はジゼル。ばりばりクラシックバレエな名前で恥ずかしいんで、
人からはジジって呼んでもらうことにしてるの。奥へどうぞ。
そのコートとか上着とか、乾かさないと風邪、ひくわよ」
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