In memory of : 〜を記念して、〜のために;〜を追悼(追憶)して

4

「こんな良い手仕事をする人がまだいるなんて、
私、うれしくなっちゃったなぁ!」
雨宿りをしただけの店でいきなり昼食を振舞われ、熱弁を振るわれて、
少々面食らっているエドワードである。機械鎧大絶賛が続いている。
「作った人ってどんな人?お爺さん?」
「あ、いや、若いよ。オレの幼馴染の子」
「えっ、子供?!(誰が豆で子供だ?!とエドワードは激昂していた)私はてっきり年寄りの頑固職人を想像していたわ。子ってことは、
女の子?」
ああ、またすごいすごいって感嘆が始まる…予想通りだった。
「うちでは扱っていないけど、昔の鎧とかにもとっても綺麗なものが
あってね、私、そういうのも大好きなのよ!」
アルが一緒じゃなくて良かった。こんな調子じゃ拉致されかねないや。
「すごい彫刻を施してあったり、エナメル彩色をした盾なんて
あるのよ。とても綺麗で、本で見たときは戦で使う道具とは、
とても思えなかったわ。
どうしてなんだろう?と思って婆さまに聞いてみたのよ」
熱弁の途中の水分補給か?ジジは紅茶に一口つけて、
カップを静かに下ろした。
「死に装束なんだって」
「えっ?」
今までのテンションとは違った、重い一言に思わず聞き返した。
「だって、そのまま死んじゃうかもしれないわけでしょ。
鎧を着たままで」
彼女が意味するところとまた違うところで、どきりとさせられた。
鎧のままで死んで行く…。
「アンティークは死というものと切り離せない部分があるのよ。
今みたいに寿命が長くなかった頃だし、誰の周りでも死というものが
身近だったのね」
ジジが小指にはめていた小さな指輪をするりと抜いた。
「それ、内側を見てみて。銘が入っているでしょ。モーニング、つまり追悼なのよ」
流れるような字体で高い身分の女性の名と日付が彫刻してある。
「ガラスの下に入っているのは?」
「遺髪。当時の職人技で綺麗に編んであるわ。
ブロンドの女性だったのね」
そんなものを手にしているのが怖いような気がした。
髪にはなにか宿っていそうだ。
「怖い?気持ち悪い?」
「いや、そんな…。でも知らない人の髪だろ?」
「そうね。でも何か、すごく惹かれるものがあるのよ」
エドワードから指輪を受け取ってジジがもとどおりにはめなおした。
「最初、私もびっくりした。髪の毛ってなんとなく怖いような気が
したし。でも違うんだって、随分経ってからわかったわ。
あの人が死んだときに」
ジジの目線はがサイドテーブルの上の写真立てに注がれた。
「あなたの技師さんと一緒ね、幼馴染だったのよ。
一緒にいるのが当然だと思っていた。この前の内戦で死んだわ。
死亡通知が来ただけで何も返ってこなかった」
あきらめなのか、泣かないようにと自制しているのか、
ジジは少し微笑んでさえいる。
「私にはこういう指輪を作ることさえ出来なかった。
大切な人を失うということがどんなことか、よくわかったわ。
その辛さを乗り越えるため、そしてその人を忘れないため、
こんな指輪を作ったんだって。
この指輪に宿るのは恐ろしいものじゃない、
愛したことの思い出なのよ」
ジジが愛しげに指輪をなでた。
「そういう想いをこめて作られた指輪が縁あって
私の手元にきたのだから、やっぱり何か理由があるのだと思う」
死んだ人は帰ってこないのだから。
人は自然の流れに逆らうことは出来ないのだから。
理解していると思っていることが、あらためてエドワードに
重くのしかかる。
(それでもオレはアルを鎧のままで死なせるわけにはいかないんだ)
決意もまた、あらためて浮かび上がってくる。
愛したことの思い出と共に。
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